それは冬のひどく雨の降る日の夕方
雲に隠されて夕日なんて見えなかった
私は独り車内に残されて
しわくちゃの一万円札を持たされていた
夜になると雨は一層ひどくなって
私は自分の置かれた立場を理解した
母は私を置き去りにして行ったのだ
店の明かりも消え照明も落とされた頃
私は寒さに震えていたが不思議と寂しさは感じなかった
ことあるごとに私に暴力を振るった母親から
逃げ出せたと思った
その安堵感と自由になれた嬉しさに
先の事も考えず喜んでいたのだ
夜は更ける
翌朝
深夜に雨は雪になり気温はマイナスになっていたらしい
私は凍死体として発見された
それでも良かった
やっと私は自由になれた
もう痛みも寒さも感じない
その代わりか私はそこから動けなくなったのだが
雨が激しく車の窓ガラスを叩く音だけが
今も聞こえてくるようだ