袋小路に咲く花
殿岡秀秋

狭い二またの路地の
一方を歩く
袋小路だった
道を戻る
時間を無駄にした

往って戻った時間は
本当に無駄だったのだろうか

袋小路の突き当たりで
強い香りに振り返った
箱庭なのか
と思うような小さな庭に
花韮の白い花が一本
首をかしげて立つ

星形の花びらの
中央に黄色いめしべ
花びらは校章の形
ゆらりゆらりと揺れる
細い茎の背後から
白い制服の
長い髪の
やせた少女が現れてくる

廊下を歩いてくる少女の目と
青い制服のぼくの目とが合った
ぼくは言葉を出すこともなく
うなずいた
ただそれだけなのに
心臓をどきどきさせながら
少女の傍らをとおりすぎて
廊下を曲がって
長い廊下をはしって
校舎の裏に出て
かるいめまいを感じたときに
花壇から強い香りの
花韮がぼくを呼んだ

そのときの血の巡りから
情動まで蘇えり
袋小路の出口で
しばらく立ち尽くす




自由詩 袋小路に咲く花 Copyright 殿岡秀秋 2012-06-15 08:45:03
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