眼差しの先に
岸かの子

虚ろげな眼をしている誰かに見られている
後ろ指を指されている誰かに怖がられている
怒ってなんかいないのに
怒鳴ってなんかいないのに

このクソアマが

何かが飛ぶ何かが叫んでいる
何かが当たった何かが流れてきた
何もしていないのに何も言ってないのに

なんかその眼は

何かが引っ張られる何かが音を立てる
何かに包まれる何も感覚がない
何も何も誰も誰も
辺りが真っ暗になっている
どこかに部屋ではない違う場所に

たいがいに起きてこんや

光が差した笑っているのは誰だ
誰が笑っている何かに包まれたまま
ぼやける意識の中で自分を把握していたのか

毛布とロープと鉄下駄と跡形もない服の切れ端
散乱する無数の黒い髪の毛シミになっている血しぶき
何本かの歯
うすれゆく意識の中で口の中がざらついた

腫れている瞼が重い
明日が休みでよかった
      よかった


自由詩 眼差しの先に Copyright 岸かの子 2012-06-15 01:26:16
notebook Home