strawberry on the radio jam
ブルーベリー

海に連れて行ってくれる筈の
君の爽やかな声は
疑問系で終わってしまった
「南へ行きたいのか?」
落胆の周波数に
頷く事を忘れて
ただ見つめあっていた
そのうちにラジオが
波音を引き寄せ始めた

「ほんとうに?」

窺うような君の目を見ているうちに
知らず私は唇をもぐもぐさせた
君の髭は美味しそうで
海も南下計画もどうでもよくなっていた

子供は2人居て
それなりに恐怖と安堵を繰り返す日々

「南へ」

バルコニーに招かれた風が木々を揺らし始めて
波音は近くの浜茄子のざわめきに変わる
浜茄子? いいえ、まだ早い。 ―苺、
緑蔓延るコンクリートの境界線へ向かい
縁にしゃがみこめばワンピースの裾が
結晶に侵された
何も知らない
赤い実
必死で拾い
ワンピースを広げて運ぶ
そうっと

足を高く上げて入る我が家

私達に向かう海などなかった

フローリングで
眠る幼子と君に
笑みを零すと
キッチンへそろそろ進み
苺をワンピースからボウルへと移し
さっと洗うと砂糖と小鍋を取り出して火にかけ
仕上げはラジオからの絶滅危惧種の爽やかな香り
ちょうど煮え立つと
私はそれを歌い合わせた
もうすぐアラームが鳴る頃だから
起こしても問題はないだろうと


自由詩 strawberry on the radio jam Copyright ブルーベリー 2012-06-14 23:46:01
notebook Home 戻る