幽霊
たもつ


上りのエスカレーターに
幽霊が立っていた
ぼんやりとネクタイを締めて
小さな咳をしていた

駆け上がる人が
春のように
体をすり抜けていった
見えない、
それだけで幽霊だった

上の階につくと、今度は
下りのエスカレーターに乗った
おそらく、その繰り返しで
幽霊の一日は過ぎていく

そして今日も私は
誰かの記憶の中で
咳をしているだろう
あやふやになった姿かたちで
それはまた
幽霊とも違うだろう
 
   


自由詩 幽霊 Copyright たもつ 2012-06-14 19:59:10
notebook Home 戻る