まぼろしの指揮者
服部 剛
ある日、名指揮者は倒れ
コンサートは(指揮者無し)で行われた
ヴァイオリンもフルートもホルンも
それぞれの奏者は皆
無人の台の上にいる
まぼろしの指揮者のうごきを見て
それぞれの音を奏でた
全ての曲目を終えた後の
ひと時の沈黙
客席から
ホールの天井に鳴り響く
無数の拍手の波
帰りの電車に揺られつつ・・・
いつしか見ていた夢の中の音楽会で
僕はヴァイオリンを持っていた
無人の台に薄っすら見える
まぼろしの指揮者の手に
ぴたりと静止した棒
僕はじっと目を凝らし
ヴァイオリンを、顎に構える