sailing
Akari Chika

夜がすき
たまらなく
夜のにおいが

透きとおる風の底から
夜更けの窓が見える、
わたしを呑みこむ
星屑の泡が立つ
深海の窓

ありふれた街で息をする、
そのことがたまらなく愛おしい

灯りに埋もれる勇気はないけど飛べる気がする
浮気な痛み
満ちる気のない月
夜空に散らばる
果てしない数列。
彗星は離れ 離れのふたりを結ぶイコール

なみだを飲んだら
わたしは強くなる

高層ビルの箱舟に
身体がはんぶん溶け込んで
櫂を握る手は空っぽの部屋
錨を上げる制服のガードマン

あなたの肩に頬が触れたとき
あなたは少し困った顔をした。
今もその顔が
ちりちり、
ちりちり、
胸を炙る。

傍で丸くなって
眠るだけでいい
夢の境界線を越える前に
舟の上から手を振るから、
そっと応えてくれればいい

いまさら本音を言ったって遅いのに
嫉妬が漕ぎ出す
都会のつむじを。

指揮を執る魔物が夜明けの路を指さす
明日という日が素晴らしいものなのか
どう考えても分からない、
少しずつ進めば
答えは出るのか
わからない

途切れそうだけど
いきを吸う。

ネオンの灰がお腹に溜まる
ノイズの塵が肺を刺す

わたしは夜を泳ぐ魚にはなれない
ただつなぐだけ
引き合う
星と星を
見届けるだけの傍観者。

夜の正体は
大きなバルーン
ひとみの裏側で
重なる球体

誰かのつぶやく「help me.」
広告を載せた巨大なバルーン

夜の正体は観覧車
めぐりめぐって
遠回り、
まわりまわって
時間稼ぎ

それでも結局
寝起きに出逢う、
尽きない悩みと 甘い本能。





自由詩 sailing Copyright Akari Chika 2012-06-09 21:34:08
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