狐の嫁入り
永乃ゆち



狐の嫁入りと言う言葉を聞いたのは中学生の頃


何故か白い狐の面を被った白無垢のお嫁さんを思い描いた


林の中をひっそりと進む行列が雨に濡れて哀しく思えた


何故狐の面なのか、何故林の中なのか


最初に愛した人は血の繋がりのある人だった


結果、無理矢理見合いをさせられ無理矢理子どもをもうけた


子には可哀想な事をしているといつも泣いていた


義母は意地汚く義父は厭らしかった


夫は最も薄汚れていた


ある日私は子を連れて家を出た


あんな夫の子だが罪はない


そうしてその夜


私は家に火をつけた


火は一晩中燃え盛り家屋を全焼させ人間すら焼き尽くした


夜が明け空は晴れ雨がしとしと降っていた


(あぁ、そうよね、これが狐の嫁入りよね)


白い狐の面を被っていたのは私だ


哀しく嫁いでゆく


子を抱いて虚ろに焼跡を見ていた私はそのまま連行された


最後まで子には何もしてやれなかった


ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい


本当に愛したあの人に会いたかったがそんな資格はないだろう


私は自分のした事を一生かけて償ってゆく


けれど


懺悔の気持ちは持ち合わせていない


思う事と言えば自分の人生への嫌悪感


何故逃げ出さなかった?


何故拒否しなかった?


言われるままに流されて自分で自分の首を絞めた


此処から出たら林の奥へ行こうと思う


白い狐の面を被って










自由詩 狐の嫁入り Copyright 永乃ゆち 2012-06-08 14:48:13
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