部品
小川 葉



蝉のプラモデルを買った
部品をよく確かめながら
組み立て方を見て作った
完成した蝉は
少し違う形の虫だった
説明書に完成したら
ボタン電池を入れ
冷暗所に保管
と書かれてあったので
押入れに保管することにした
電池を入れたからなのか
時々動く音が
夜眠ってると聞こえる
夏が近づくと
音もやがて小さくなった
電池切れだと思った
久しぶりに押入れから出した虫は
柔らかく透きとおっていた
プラスチックの材質から
新しい形の違うプラモデルが
古いプラモデルの中から出てくる
次第に固まっていく
それは蝉であることがわかる
単四アルカリ電池二本
説明書に書かれてあるとおり
腹部の蓋を開けて入れると
プラスチックの羽を羽ばたかせ
蝉は空に飛び立っていった
鋭いゼンマイのような
鳴き声を残して
夏が終わる頃
電池が切れたプラモデルが
道ばたに落ちている
腹部の蓋を開け
電池を取り替えても
蝉は二度と動かない
部品はすべて
揃っているのに



自由詩 部品 Copyright 小川 葉 2012-06-07 22:35:23
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