クリニズム
salco

ニーラは主人マリックの為に
四種のカリーを毎日作る
チキンのカリー 豆のカリー
マトンかさかな 野菜カリー
グジャラートは三人の女中に
朝昼晩を割り当てている
そうしてその日一等美味い
料理を作った者を呼ぶ
ハウラー五指の穀物商
グジャラートはそういう男

銀のお鉢に入れられて
銀のお盆で運ばれる
チキンのカリー 豆のカリー
マトンかさかな 野菜カリー
ヴィディヤ二十三歳、ラクシュミー十八歳
ニーラは十二歳
一等あたらしい女だから
二度と呼ばれた事がない
ダウリーを作れぬ家から来て
料理上手になりたくない

庭木の根方で涼む影
邸と事務所の中庭を
チキンのカリー 豆のカリー
マトンかさかな 野菜カリー
捧げ持つ緑のサリーのヴィディヤ
ナンとつけあわせは黄のラクシュミー
しんがりがチャイのポットと器のニーラ
ラクシュミーのお下がりの
フューシャのサリーを今日も着て
思い詰めた顔をして

マサラを潰し食材を切り
かまどの火焔に炙られて
チキンのカリー 豆のカリー
マトンかさかな 野菜カリー
ニーラは字もよく知らぬまま
一年一年腕上げるだろう
果てなく続く毎日と
果てなく長いその先に
田舎のすべてが恋しくて
サリーの裾が擦れて行く



クリニズム … 十九世紀に廃止された、ベンガル地方のバラモン階級間だけ
        の多妻婚
グジャラート … インド西部にある州名、ここでは人名
ハウラー … 西ベンガル州の都市
ダウリー … 花嫁の持参金



自由詩 クリニズム Copyright salco 2012-06-05 23:59:31
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