タルトタタンの詩
パラソル
タルトタタンをまっぷたつに割ると 忘れかけてた黄色い生地から
たくさんの見えない船旅が
競走馬のように水平線に向かって道をつくる。
水平線の向こうには大きなコップの頭が見えている。ズボンのポケットから
取り出したハンカチのように必然に見せかけた偶然。
コップには紫色の水が入っている。それはすっぱい匂いの水。
水の中を人間が泳ぐ。1945年に流行った水着を着て。
すっぱいにおいがこびりついたまま爆弾が落ちて
記憶がそのまま
海のとなりに皿があって、それからタルトタタンがその上にどさっと
おかれている。
包丁でいくら切っても黄色い体から血が出ない
つよそうなタルトタタン
そのままコップの中の水といっしょに なかよく行進するタルトタタン
水平線に向かって自分の考えは持たずに体はバラバラになって
行進するタルトタタン
赤いねばねばした誰かの舌にふれて 「あまい」という言葉を
頭の中にやどらせるように
命令したタルトタタン
すっぱい水といっしょにぐちゃぐちゃにされて
「ちょうどいい」と思われたタルトタタン
そしてすっかりなくなって、しばらくしてから忘却のかなたに
飛び立つタルトタタン。
ロケットに乗って飛び立つタルトタタン