小さな森
そらの珊瑚

おじいちゃんと森で薪を拾う
僕が手当たりしだいに
背負子に放りこんでいると
そいつはまだ早いと言う

幹を離れてまもない小枝は
水分を含んで
みずみずしい
生木の範疇を出ないものは
ぶすぶすとくすぶるだけで
役に立たないと言う

とりあえず拾っていって
家の庭に置いておけば
いいんじゃないですか? と聞くと
いいや、それではだめなんだ
この森で乾いていく時間こそ
大切なのだから、と言う

おじいちゃんのシワだらけの顔をみつめる
だいぶ乾いてきた様子に
おじいちゃんはまだ生木ですか? と尋ねてみる
触ってみろ、と差し出された
おじいちゃんの手は
だいぶ乾いていた

帰り道はこっちだぞ、と僕の手を引く
知ってるよ
だってパンくずを撒いておいたから
食べてる、食べてる
あの青い鳥はルリビタキだな
ふかふかの路でたたらを踏む

それからおじいちゃんは病気になったけれど
病院なんか行くもんか
あんなところへ行ったら
本当の病人になっちまうと言い
住み慣れた家で最期の日を迎えた

僕のお父さんは
おじいちゃんのことを
いつもは頑固ジジイと呼ぶのに
その日は
オヤジ……と言って泣いていた

僕の身体の水分が眼から滲み出して
おじいちゃんの顔を濡らしたけれど
もう生木には戻らなかった
おじいちゃんは
この家で薪になって
パチパチと燃えた
ほんのささやかな
白い煙になって
小さな森に還っていった
六月の風を道案内にして



自由詩 小さな森 Copyright そらの珊瑚 2012-06-04 10:14:15
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