離れ そのまま
木立 悟
硝子と硝子のはざまの花
花の息に
そよぐ花
花は
花ではないのかもしれない
祭の終わりに
終わりを見ぬまま離れ出て
裏の通りを歩いていた
海に並び
海に着かぬ道
遠のくばかり
指は指に
波は波に重なるばかり
次々に
指でも波でもなくなるばかり
泡のなかの目
泡の鳥
砂浜に立つ透明に
一瞬隠れ
また現われる
暗い深みどりの径を
四つ足の背がすぎてゆく
鈍と銀に溶けながら
坂のひとつを下りながら
火口湖の辺
空の白ばかりあふれあふれて
受け取ったものを返せずに
水はいつまでも朝の色でいる
背を向けた鏡にこそ
なお映るもの
うろこ とさか
さらに蒼へ
蒼はなつもの
岩が飛び去り 標が飛び去る
煙の家が道に立ち並び
来た方へゆく方へたなびきながら
在りつづけながら消えてゆく
一月と二月は右腕をむさぼり
三月と四月は吐き出して
いつまでも海に着かない地図を
夜が来ないうちに刻んでは撒き
花は無く 音は無く
花の影だけが降りつづく
まわり 重なり
互いを染めあい
ふざけあいながら
枝を焼く虹が原に寝そべり
ひと周り遅い午後を見る
波も陽も去ったあと
花の名でなく花そのままを
虹は虹を捨てなお待ちつづけている