ヒキナギ乞う唄
砂木

雛は鳴いて 朝露流れる 雲白く
つたのからまる古木 陽が射し
巣穴からのぞく 黄緑の小鳥

アイビーの葉陰をすりぬけ
近くの木にとまる
尾をうちふり チチチッ

おはよう ナギ

会社に行こうと車を出すと
車庫の前から飛び立つ小鳥
そのまま飛んで電線に止まる
時には 草むらに下りる チチチッ

いってきます ナギ

会社から帰る道すがら 
家に近づくにつれ
いるかな いないかな
いいとしをしてばかげてると
自分にあきれつつも期待している
家の近くの電線にいると
一日の嫌なことも ふっきれた

ただいま ナギ

ナギのどこに惹かれたのだろう
一羽でカラス二羽を威嚇した強さにか
なんとなく情がうつったのか

最後に見た雪の降る数日前
ナギは 大きくなって見えた
冬に備えて たくさん食べたのかな ナギ
車庫から車をだして出勤する私の横を飛び
部落のはずれの木に止まり お別れしたね

チチチッ と口真似しては
空を見るけど あなたはいない
いないのはわかっているけど
私もいつまでもいるわけでもないし
いないのではない 
ナギは私といるしかない
なぜなら ナギだから

名のもとに現れるあなたはもうただの鳥ではない
あなたか私か もう区別できない
ナギが今度は人間で 私が ただの風でも

チチチッ ささやいて
風に微笑んで

オカエリナサイ





自由詩 ヒキナギ乞う唄 Copyright 砂木 2012-06-03 16:42:03
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