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葉leaf

少年は、CDの最後の曲が鳴り止んだ後の時間が苦手だった。少年はいつもヘッドフォンで音楽を聴いていたが、最後の曲が終わってしばらくするとCDが停止する、そのときのズン、という音が苦手だった。曲が終わってもわずかなノイズは鳴り続けるが、CDの停止と共に真の静寂が来る、それが怖かった。

僕が会いたかったのは誰でもなかった 出会いは強制のようにやってきた 周りの人たちの知識と知性と倫理に 決して勝てないように思えて 僕はその敗北を自尊心のなかに回収できなかった 敗北は曇り空のように圧倒的で 自尊心は宝石のように硬かった 僕は宝石を砕くことで自らを砕いてしまった

満員電車の外には余りにもなめらかな春が広がっていて 大学の門の前からはいくつもの気流が生まれていた 僕は張り詰めたり笑ったり 見慣れぬ人の性格が やけに鮮やかに見えてしまったり 始まりの方が終わりよりも重かったし明らかだった それでも終わりはいつまでも僕のしっぽを梳かし続けていた

動物が学問のように見えるなんて、僕は頭が狂ってしまったのかと思いましたが、部屋に戻って政治学の教科書を読み始めるとどうも鳥のように飛び立ちそうでしたし、慌てて行政学の教科書を開くと今にも吠え始めそうでした、そこで急に閃いたのです、学問も動物も詩の中では全く置き換え可能だということ

僕がいつもの散歩に出かけると、電線の上に鳥が停まっていました、ところがどうもその鳥は政治学のように見えるのです、鳥と学問の一体どこが似ているのかさっぱりわかりませんが、しばらく歩いていると犬の散歩をしている人が向かってきました、ところがどうもその犬は行政学のように見えるのです、

北風と南風が混ざって木の葉を散らす朝、僕は一匹の子犬を憎んでいました、子犬はとても愛らしくて従順で何もかも完璧だったので、僕は激しく憎んだのです、これが人間なら憎まなくても済んだ、人間は完璧にはなれないから、ところが子犬は人間的穢れがなくてまるで善や幸福のように憎らしかったのです

広場の雑踏の隅のベンチの上で、僕は生れた時に家族と交わした契約書を書き直していました、林の小道の木陰に座り、僕は全てにおいて反転した僕へと時候の挨拶を書いていました、役場の机の前に立ちながら、僕は地から湧いてくる思想や感情や物語を延々と書き連ねていました、全てあなたの決裁待ちです

僕はあらゆる夢を失い失意のうちに帰路につきました、途中で何人かの人に会いました、一人目は僕を励ましました、二人目は僕を軽蔑しました、三人目は僕をそっとしておいてくれました、そして四人目の老婆が言いました、人間は夢から逃れることはできない、どんな凡庸なことも原石であり磨けば輝き出す

私からすべてを吸いつくしていた受験勉強と訣別した、だが受験勉強はいつの間にか私の愛人代わりになっていた、私を振り回し続けた愛人だった、愛人との別れは望ましいものであったが、その互いに深く食い込んだ愛憎の刃の痕はいつまでも残り続ける、その喪失により、例えば私は少し心が毛羽立ったり、

愛はどこにありますか?−愛はどこにもない。なぜなら愛は存在ではなく関係だから。−僕の愛は情熱として僕の胸のなかにあると思うのですがそうではないのですか?−それはどこかへと向かっているね。愛の本体はその向かい方にあるのだ。−では、どこにも向かわずにただ留まっているこの幸福は何ですか

私からすべてを吸いつくしていた受験勉強と訣別した、ところが私の部屋にはまだ法律関係の書物が大量に置かれている、私はそれらをただの紙束のように思いながら、一方でまだまだ読み続けていこうという消えない意欲の惰性に突き動かされもする、これらを読む目標が消えた今、その目標の変換に手間取る

戦いの連続?「戦い」って何?そんなに自明に言葉使っちゃっていいの?と私の厄介な批評野郎が唱える、戦いとは攻撃と防御のことを言う、何かを得るために対象に働きかけていくこと、何かを失わないために対象から身を守ること、だが、得る失うとも無関係に戦いはある、単純に意識も経験も存在も戦いだ

私からすべてを吸いつくしていた受験勉強と訣別した、私は喪失感と安堵感と解放感とその他暗めの極彩色の感情に沈潜していた、その時頭上から突如声が聞こえる、「卒業おめでとう!卒業おめでとう!」、いったい何の卒業だというのか、確かに私の気持ちは少し高まったが、人生はまだまだ戦いの連続だ、

完璧主義の友人が完璧主義の夢を熱く語った、私はそれは非現実的だと言った、すると彼は言う「俺は今反抗期なんだよ」「今まで自分ってものが無かったんだけど、今は自分を出していきたいんだ」、私は言った「俺はかつて盛大に反抗して今その反省の上にいる。君は成熟しないのか」、彼「成熟はないね」

完璧主義の友人が完璧主義の夢を熱く語った、その時私と彼の足もとに、一匹の蟻が自分よりも大きな獲物をくわえてよろよろ歩いていた、私は言った「君みたいだね」、彼は言った「そうか、俺はこうなのか」、しばらく会話したのち再び彼はさっきより弱った蟻を見る「俺もいつかこんな風によろめくのか」


自由詩 twitter Copyright 葉leaf 2012-06-03 13:10:33
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