ゲームな日常
無限上昇のカノン

モンスターに連れ去れた少女が
迷宮に何処かに幽閉されている
勇敢な男たちが 何人も救出に向かい
そして 誰も帰ってくることはなく
虚しく歳月だけが過ぎていく

少女が忘れ去られて 昔のおとぎ話になった頃
本物の勇者が現れた
剣と盾を持ち 鎧を纏った姿は凛々しく
迷宮へ向かう背中は 自信に溢れ
モンスターは退治されると 誰もが信じた


迷宮は薄暗く 石造りの回廊の中に足音だけが響き渡る
勇者の剣は 多くのモンスターを切り刻み
迷路の中を進んで行く

やがて勇者はたどり着く
大きな鉄の扉の前
伝説の少女が閉じ込められた 幻の部屋
骨になった少女を弔うために
勇者は鉄の扉を開ける

ミノタウロスさえ 一撃で倒した勇者の中の勇者
もはや 怖れるものはない
扉を開けて勇者は驚く
無数に散らばる人骨の中で
小さな椅子に腰かける少女
年老いることもなく 伝説の少女そのままの姿に
勇者は しばし 言葉をなくす

人骨の中で 少女が微笑む
小さな唇が言葉を作る

迷路はいかがでしたでしょうか?
最上級の お持て成しをしたのに 勇者様の敵ではなかったみたいね

少女は 手の平をひらひらさせて
モンスターを召喚する
次々に押し寄せ 襲い掛かるモンスターの群れ
切り倒しながら勇者は悟る
この少女こそ 迷宮の主

すべの 敵を切り伏せた時
少女が人骨の中で立ち上がる

さあ、勇者様
私を切り殺してごらんなさい

両手を広げた小さな体が 人骨の中をゆらゆら揺れる
少女の姿に 勇者は躊躇う


切り殺す?


勇者の隙に少女が踏み込む
天使のような無邪気な微笑み 
迷いのないその動き
真っ赤に染まったその目の奥に 少女の姿が歪んで見える
やがて広がる暗闇の中で
勇者は己の敗北を悟る

遠くで 少女の声がする


救いは来ない・・・


迷宮に入った勇者は帰らず おとぎ話は風化して往く
今でも誰かが 迷宮に迷い
少女と対決していることなんて あなたにとっては無関係なこと

本当に無関係なこと・・・?




自由詩 ゲームな日常 Copyright 無限上昇のカノン 2012-06-01 20:35:07
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