洞へ 夜へ
木立 悟





光が
空の壁を抜け
消えてゆく
遠い笑みの 細い柱


石の路の夕べの先
午後が雷を呑んだあと
あたりは暑く静かになり
失くしたものを数えだす


進む方へ 傾く夜
小さなものらが縁どる水
まばゆさ ついてくる
まばゆさ


涸れ川をゆく影
崖の上の木
砂色の陽
見上げる曇


穴のあいたものどうしが
こぼれる景色を拾いあう
さまざまな記憶が
重なり浮かぶ


誰かのための左目があり
震える夜を映している
棘 針 刻み
曇のなかを たどりつく駒


首の落ちない花を望み
庭のすべてを塗りかえて
空の指の穴 音の穴
腕を伝い 地に刺さる色


緑を呑んで倒れては
水の底にかたちを残す
文字なのか絵なのかわからない
光に近い世迷言を


足跡に無数の骨がつもり
旧い旧い星座を視ている
どこに立っても 目をつむり
すべての廻転を悼む夜たち


手のひら手のひら手のひら手のひら
原を分ける無数の径を
ひとつのしずくに抄いゆく
ただそれだけの 手のひら手のひら


土のなかの
鉱を聴く火
洞を照らす わずかな光
夜を夜に震わせてゆく


























自由詩 洞へ 夜へ Copyright 木立 悟 2012-06-01 08:59:16
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