洞へ 夜へ
木立 悟
光が
空の壁を抜け
消えてゆく
遠い笑みの 細い柱
石の路の夕べの先
午後が雷を呑んだあと
あたりは暑く静かになり
失くしたものを数えだす
進む方へ 傾く夜
小さなものらが縁どる水
まばゆさ ついてくる
まばゆさ
涸れ川をゆく影
崖の上の木
砂色の陽
見上げる曇
穴のあいたものどうしが
こぼれる景色を拾いあう
さまざまな記憶が
重なり浮かぶ
誰かのための左目があり
震える夜を映している
棘 針 刻み
曇のなかを たどりつく駒
首の落ちない花を望み
庭のすべてを塗りかえて
空の指の穴 音の穴
腕を伝い 地に刺さる色
緑を呑んで倒れては
水の底にかたちを残す
文字なのか絵なのかわからない
光に近い世迷言を
足跡に無数の骨がつもり
旧い旧い星座を視ている
どこに立っても 目をつむり
すべての廻転を悼む夜たち
手のひら手のひら手のひら手のひら
原を分ける無数の径を
ひとつのしずくに抄いゆく
ただそれだけの 手のひら手のひら
土のなかの
鉱を聴く火
洞を照らす わずかな光
夜を夜に震わせてゆく