理由「優しい風」
もっぷ

少女が蒼白になって
走って行った
なぜだろう
と振り返ってみると

山が橙と無残に燃えていた
そこに山はなかったはずの
ここは東京の下町のその
はずれ

で、
ふとわれに返ると
わたしは走っていた

つらい道のりだ
ということを知っていながら
やめるつもりが

ないことも悟っている
どこまでもゆこう
と誓ったのは

いつ、だったのか
風にたずねると

はい、私は薫っていました

と応えてくれた
「優しい風」
誰かの詩集の一節だったか

あるいは夢の中の童話の題名の一つだったか

五月の昼下がり
燃えていたはずの山はいつか
首都高の向こう側のどこにも見えず

わたしはかなり安堵して
今夜は徹夜だ
と決めた


自由詩 理由「優しい風」 Copyright もっぷ 2012-05-29 20:35:56
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