「埋葬」
ベンジャミン

昨日のわたしを丁寧に埋葬する
それはやはりひとつの儀式として

今のわたしの内側には
そうやって埋葬されたいくつもの棺が
記憶と名付けられて並べられているのだ

さようなら、昨日や、あの時の、過去に起立する、わたし
さようなら、再び、思い返すまでの、約束されない、わたし

   ※

蟻の巣の入り口に取り残された蝶の羽のようだったら
ずるいと思えるほどに美しいのかもしれないけれど
蝶は大切な心の置き場所を失ってしまったのだから
わたしはきっとまだ幸せなのだと思う

埋葬されたわたしの亡骸はいつまでも朽ちないで
なのにだんだんと透明になってしまう
鮮明な色の蝶の羽はいつの間にか無くなるのに
それはこうしてはっきりと思い出せる

   ※

土の匂いが恋しいと思うことがある
それはわたしがわたしを埋葬する前のことで
今はテーブルの上に置かれた紅茶の香りに忘れている

あるとき初夏の風に吹かれていたわたしは
緑色の絨毯の中にぽつんぽつんと咲く
名前も知らない花を見て

あれはもしかしたら
今までにわたしが埋葬したもののかたちかもしれないと
そっと近づいてみるのだけれど

その花はいずれ散ってしまうことを
どうしてわたしに教えてくれないのだろう

それさえも埋葬してしまうわたしに
束の間、立ち止まることもなく

わたしは歩き続けてしまう
  


自由詩 「埋葬」 Copyright ベンジャミン 2012-05-29 01:49:09
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