魂の宿
小川 葉



海老フライが網にかかる
隣の船では大トロが大漁だ
赤身は人気がないので海に離す
いつか大トロになることを願って

畑にハンバーガーの実がなっている
産地に行けば生産者のスマイルが買える
春夏秋冬
いつでも養豚場からトンカツが出荷される
揚げたてのように
まだ動いている

みんな街に運ばれていく
産地を気にしながら
美味しそうに食べている
そんな街の人たちも
生きてる魚をいつしか見たことがないように
生きてる自分のことも
いつしか忘れてしまった

真夜中
誰もいないカウンターに
一頭の牛丼が運ばれる
昨日まで生きていた
新鮮な牛のように

やがて夜が明ける
街の人は眠ろうとしない
朝から焼肉を焼く
焼肉という
生き物の存在を信じて

だからもう
私たち
家に帰らなくていい



自由詩 魂の宿 Copyright 小川 葉 2012-05-28 22:37:25
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