桜並木
永乃ゆち


遠くを見ると、果てしなく感じて目を閉じた

足元を見ると、崩れ落ちてゆきそうで怖くなった


さようなら


桜の枝が揺れて花弁が零れる時
そんな言葉を耳にする

さようなら

さようなら

何百という花弁たちが別れの言葉を告げながら
アスファルトに屋根に屋上にあるいは川面に潔く散ってゆく


私は此処から動けないまま


何処かへ行きたいわけじゃない

けれど此処に居たいわけじゃない


桜並木という物は、入口に立つだけで目が眩んで
日本でも地球でもない何処かへ連れて行かれそうだ


冥府


唇に柔らかく触れた花弁がそう囁いた


あぁ、そうか


私の歩かなければならないこの道は
二度とは引き返せない道だったのだ


風の強い日

桜の枝が揺れて花弁たちが別れを告げる時

私も自己と言う到底理解しえなかった生き物と
別れを告げたのだ


後悔はない
こんなに美しい桜を見る事が出来たのだから

最初で最後の優しい景色を
この瞳に焼き付ける事が出来たのだから


歩いて行こう

長い長い桜並木を

振り返らずゆこう

いつか立ち止まり

花弁に埋もれて

肉が腐り

骨が朽ち

転がる虚ろな瞳が

流れる桜を永久とわに映すように


自由詩 桜並木 Copyright 永乃ゆち 2012-05-28 20:27:20
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