転がる石
HAL

ぼくは昔 転がる石だった
ぼくを握った手の熱さを
ぼくを投げたその手の強さも
まだ忘れていない

でもいまのぼくはただの石だ
転がった所にただいるだけの
単なる石になってしまった

もちろんぼくだけじゃない
多くの石はただ道にいるだけ
邪魔だと蹴る奴もいるけれど

昔のぼくはそんな奴に向かって
投げられるための石だった
怖がらせるための石だった

そいつらの顔面を直撃したときは
遁走する背中に向かって飛んでいくのは
命中すればその快感はより強くなったよ

同胞には火炎瓶もいたし
角棒も鉄パイプもいたし

でもどうしてだろう
ぼくは熱い手で握られ
投げられることはなくなった

それが不思議でならない
いまこそがぼくがぼくらが
腐り切ったものに向かって
投げられるべき時じゃないのか

力を込めて的に向かって
投げられる凶器になるのは
顔面を直撃して鼻血をださせるのは
ぼくやぼくらの役目だったはずだ

いまのきみらはどうしたんだ
もう熱い手も持たず
もう強い力も捨てて

その手はただ握手のために
成り下がったのかい

それともぼくやぼくらに
別れの手を振るためかい

そうすることを選択したなら
もうこの国も世界も
未来永劫 変わることはない

昔話と鼻でせせら嗤うかい
でももう熱い手も持たず
もう強い力も捨て去った

その手に一体どんな意味があるんだ
その手に未来を掴む気概はあるのか

転がれないぼくをぼくらを
ただの石っころにしてしまって
この先なんの後悔もせずにすむのかい


自由詩 転がる石 Copyright HAL 2012-05-28 03:06:48
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