ルチーノとマリア(改作)
永乃ゆち
その日街は大騒ぎだった
ボスのルチーノがこめかみに一発銃を撃たれて死んだのさ
愛人のマリアはこの世の物とは思えない叫び声を上げて死体にしがみついてた
ルチーノは悪いことはやってたが人間は悪くなかった
マリアはいつだってルチーノの傍に居た
街の酒場で泥酔したルチーノを介抱していたマリアは
「車を用意します」
と言った男にルチーノを預けて酒代の支払いに店に戻った
その隙だった
56番目の子分であるところの俺は
特に慌てるでもなく相棒のM1911を磨き上げていた
弔いのための戦争が始まる
些細ないざこざはあったが長く平和だった街がまた血で染まる事になる
俺ももちろん駆り出される
よくある話さ
どこにでも転がってる
俺は行く当てなんてないから
この街に居るけど
愛してる訳じゃない
ルチーノとは二言三言言葉を交わしたことがあるだけで
何の恩恵も受けてないしヤツの為に俺が命を投げ出すいわれもない
ただ俺がまだガキだった頃
手の中から離れた風船を
ルチーノが素早く手を伸ばし取ってくれた事があった
俺がルチーノの子分になったのはそれだけの理由だ
街中の人間から恐れられてはいたが
街中の人間から信頼もされていた
誰かが殺されれば連鎖して多くの人間が死ぬ
くださねぇ
それでも俺はこの街から出られない
この愛すべき、糞くだらねぇ街から
それは俺が親の顔も知らないくせに
この年まで生きてこれたからだ
この街が俺を育ててくれた
「よぅ、ジャスティン。今日から俺がお前の親父だ」
組織に入った時ルチーノが最初に言った言葉だ
俺はM1911を懐に隠して部屋を出た
ルチーノ
今度は俺が真っ赤な風船をお前にくれてやるよ