ナギの唄
砂木

台所の窓から見える
枝を切り落とされツタだらけになった
古く太い木に 小鳥が住み着いた
ツタのカーテンは巣穴を塞いで
子を守りやすいのか
ツタの中に入ってゆく
朝ご飯の支度をしながら ちらちらと見た

ある日 家に帰ると小鳥はいない
猫に巣を襲われて逃げた と見ていた人が言う
ひな鳥が一羽 猫に弄ばれ転がっていると言う
あそこだと木の下を示された
でも私は見に行けなかった

鳴声の聞こえない静かな朝
台所から見えるツタだらけの木
いつもの日常になったと思った
けれど数日後 外のけたたましい鳴声に
屋根の上を見上げると

一羽 二羽 三羽 ヒキナギがいる
子が一羽は 助かったのか あれは子か
黄緑色の二羽が屋根に並んで立ち
一羽のヒキナギが すぐ近くの電柱にいる
二羽の黒いカラスの周りを飛び回りながら
チチチッと鳴き すさまじい勢いで威嚇している

ヒキナギは火の鳥 巣を作ったら良い事がある
追い払ったりしてはいけないと聞いた
長い尾を打ち振りさえずる姿は愛らしく
火の鳥などと何故呼ばれるのかと思っていたけれど
自分よりも何倍も大きなカラスに
命がけで立ち向かう姿は やはり火の鳥
火の神様 あの一家を助けて下さいと
私も打たれたように 全霊で祈ってしまった
ただの威嚇にしてはすさまじい
もしかしたら子の死体を食べられたのかな
あれこれと思いを巡らせながら
私の事など 外敵としか思わないと知りつつ
ナギ と呼ぶようになった ナギ一家 ナギ一族 

あの捨て身の怒りと呼ぶような守りは
野性のものなら誰でもあるものなのだろうか
威嚇しながら おとりになって
家族からカラスを離そうとしたのか

それから時折 出勤の時 外に見かけると 行ってきます
帰ってきたら ただいまを言うようになり
ナーギー とずうっと心で呼びかけて
飛んでくると嬉しかった

チチチっと 超音波のような高音の響く鳴声
羽を閉じては飛び閉じては飛び 
止まっては 長めの尾を上下にふって
ナギを見つけると 私はあわてて隠れてそっと見た
私は猫じゃないカラスじゃない 
でも 怪しすぎて 自分に苦笑した
冬が近づき 雪が降り 豪雪を前に
これが最後かなと出勤する時見たナギに思った
冬はこせたかも知れない でも
いつか最後はあるのだと ナギ ナギ ナギ ナギ

ナギは私を知らない ナギなどという鳥は存在しない
ただ側にきて さえずったとしても それは警戒
そうでなくては ナギ一族ではない
はずみで火の神様にすがりついて願ってしまったナギ一家も
一羽づつバラバラの小鳥かもしれない いい それでも

ナギ この心にしかいない鳥 ナギ
もしあなたが 実は宇宙鳥でも 変種鳥でも 幻鳥でも
あなたを飛ばそう ナギ
あなたをみつけた人に あなたが生まれるように

飛ぼう 一緒に
ナギ 



自由詩 ナギの唄 Copyright 砂木 2012-05-27 09:18:35
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