歌謡曲日和 -supercell 君の知らない物語-
只野亜峰

 始めましての方は始めまして。恐らくいないとは思いますが久しぶりの方はお久しぶりでございます。本日も例の如く大八島一の暑さを誇る田舎風景より私、只野亜峰がお送りしちゃうわけですが、最近のアニメですと最強のヒロインはやっぱり戦場ヶ原さんだと思うのは異論の無いところであるとは思うのですが、所謂空気ヒロインと呼ばれる次々にサブヒロインが出現するせいでおざなりにされがちな正ヒロインの横行しているラノベ業界において戦場ヶ原さんはある種最良の解ではないのかとか思ったりもしますが、主人公の阿良々々木さんの『彼女』であるという明確な立ち位置であるにも関わらずに登場シーンは並といったところでシナリオの核心にも触れたり触れなかったりのアバンチュールな立ち位置を演じていたりで非常に奇怪な存在なのですが、その立ち振る舞いはなんというか古き良きJAPANのお嫁さんを彷彿とさせる気品が漂っていて、動くアホ毛のアンテナ野郎が色んなトラブルに首を突っ込んでいるのを知ってか知らずか毅然とした放置プレイで傍観する様は仕事にはりきる亭主の帰りを待つ新妻のようでもあり非常に感慨深いものがあります。
 そもそも戦場ヶ原ひたぎさんの何が魅力的であるかと言えば誰に対しても優しさを振りまくあの朴念仁に心底惚れきっていると言う所でありまして、メッシーアッシーなんていう言葉が横行した時代すら懐かしく感じるほどに野郎をATMか何かと勘違いした娘さんが大量に繁殖していやがる昨今において戦場ヶ原ひたぎというヒロインはまさしく奇跡と言って良いほどにできた娘さんであるわけで、『私だけに貢いで!』とかいう副音声を込めながら『私だけを見て!』とか言っちゃう三次元ガールとは云わば一線を帰した存在であり、やっぱり女は二次元に限るねという結論に至るわけです。ありがとう戦場ヶ原さん阿良々木くんを好きになってくれてありがとう!そしてありがとう!


 さて、そんなアニメ『化物語』のEDテーマであり、主人公カップルの天体観測にも使われた「君の知らない物語」でありますが、ニコニコ動画が今みたいに特定の信者で埋め尽くされてわけのわからない空間になる寸前のところで突如ヴォーカロイド業界に旋風を巻き起こした「メルト」の作者でありますryoさんのsupercellとメルトの歌ってみたで人気を博したガゼルさんの共演という事で、ガゼルのメルトを聞きまくってた僕といたしましては大変に胸が熱くなる一曲であったわけですが、「好きな男の子に対して何も言えなかった女の子」という単純明快な図式の独白楽曲なので特に語る部分は無いのですが、個人的にお気に入りのフレーズがあるので今回はそんなフレーズを御紹介したいところであったりします。

 ――どうしたい? 言ってごらん
 ――心の声がする
 ――君の隣が良い
 ――真実は残酷だ

 いやあ、実に良いフレーズですね。かつて化物語の著者であられる西尾維新先生が少年ジャンプにおいて『女子のわがままに振り回されるのが好きっ!あの子が笑顔ならそれで満足♪ とかそんな奴はライトノベルの中にしかいねーんだぜ』とかいう爆弾みたいなセリフを作中で爆発させてましたが、恋とは時に熱病のようであり精神疾患のようなものでもありますが、おおよそにおいてその衝動は酷く利己的であったりもするわけです。
 ですのでこのフレーズで語られる『残酷な真実』というのは、別に彼の隣がすでに別の女に占領されててエーンとかそういうことではなく、自分の淡い恋心の本質が『彼が笑顔でいるなら幸せなのっ♪』なんていう可愛らしいものではなく、独占欲と嫉妬にまみれて汚れきったものであると気がついてしまった瞬間であったわけなのですね。汚れちまった悲しみをたくさん背負ってる歳食った人間にはわりと割り切れる事でも純真無垢な少年少女の感性にとってこれに気がついてしまうのはわりとドギツイものがあるような気がしてとてもホクホクできるフレーズであるわけです。ダメンズキングの桜井なんちゃらさんにも綾波レイが好きなあの娘にも世界の終わりがそこで待ってる祐介さんにもきっとそんな時期があったんじゃないだろうかとか思ったりするとなんだか殺伐とした気分になりますが、戦場ヶ原さんを見てたらなんだか癒されたのでしばらくこの清涼感に浸っていたいところである今日この頃だったりします。二次元はやっぱりいいものなんだなぁ みつを。


散文(批評随筆小説等) 歌謡曲日和 -supercell 君の知らない物語- Copyright 只野亜峰 2012-05-27 06:41:54
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