はがゆい
岸かの子

さざ波の僅かな飛沫さえ愛おしい
春から初夏への道のりは
小舟で海を渡る様に
儚くも危なげなモノ
飛べなくなったイカロスが クス、と笑う
白のシャツと海と小さい波が
あなたには とても似合う
一枚の絵のように
海辺に立つあなたは
輝かしい光に包まれて
無限の微笑みを届けてくれる

生きてゆく喜び
何にも代えがたい心の叫び
さざ波の向こうから夢へといずるあなたは
顔も、言葉も、囀る口元も懐かしい
あなたの名を呼べば身体も温まり
私はあなたに 
抱かれながら寿ぎの言葉を羅列しゆく

さざ波から産まれたあなたを強く抱いたら
泡のように弾け 飛沫をあげた
弾けたあなたを掬い取り私の深い処へと弄りよせる
同じ言葉で歓喜の声を出せば
私も弾け 空へ飛ぶ


自由詩 はがゆい Copyright 岸かの子 2012-05-25 02:31:23
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