対話
蒲生万寿

鳥と話そうとする者がいた
鳥は陽気にさえずり明るく応えた

石と話そうとする者がいた
石は沈黙したまま
ただその表面に瑞々しい苔を宿らせ
思いを告げていた

森と話そうとする者がいた
森は包み込むように靄を漂わせ
時折それを吹き流す風は
「すでに受け入れている」と知らせていた

空と話そうとする者がいた
空は何処までも青く遠く広がり
ありったけの意味を述べていた

星と話そうとする者がいた
無数の星は光を放ちながら空間に散らばり
語り尽くすまでその輝きをやめようとしなかった

土と話そうとする者がいた
土は「分かっている」と
常に足元で囁いた

海と話そうとする者がいた
海は動と静の何たるかを
もっぱら一方的に話した

自分と話そうとする者がいた
「言葉はたった一つのことを語るためにだけ必要であり、
それ以外のことは皆、消え去る」のだと

一つのこととは何だろうか?

それを話そうとする自分がいた


自由詩 対話 Copyright 蒲生万寿 2012-05-20 15:56:30
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