その祈りは、とても細く硬い針のように振れて、きっと何者もきずつけることはない
ねことら
あなたに追いつきたい。確定させたい。
素肌や、くちびるや、往来の熱のこと。
恋のはなしだ。
わたしは、いつも恋のはなしばかりしている。
嵐のように荒れて、きみが部屋を出たあと
ふたりぶんのコーヒーを淹れて
まだ帰りを待っている。
うすい左胸のふくらみから、少しずれた部分がいたむ。
なにか、大切なものが外れたような感覚があって。
月のわずかな光量で部屋が照らされている。
おとはしない。
もしかしたら、わたしのやりかたは
弔いの方法にちかいのかもしれない。
ひとをすきになるのは、命をひとつすてることだ。
わたしの、その瞬間の命は、もう
きみに差し出しているのだから。
おろしたてのサンダルをはきたいから。
迷ったけど、わたしもおいかけることにする。
理由なんてそれくらい。
サンダルにあしらわれたゴールドのリングが
ぼんやりひかっている。
たぶん舵は折れたまま。
だから、うまく風下にながされていけばいい。
夜気にふれて、水のようだとおもう。
どこまでも無人信号がつづいている。
なにも考えなくていいのは楽だ。
まだ夜の深い方へ。
ヒットポイントゼロのたましい。
肯定なんてはじめから望んでなかった。
右か。左か。
おいかけるだけだ。