はやも若葉の盛り
木原東子
他人用に仮初めの
住まいたらむと建てられし
小さき貸家のうらぶれて
濁り空気を抱え居る
廻りには山の賑わい
野生のケシの群れ咲きて
薄オレンジ色に
人棲まぬ
家を包みていっせいに
そよぎているは哀しき眺め
はたまた楽し
早緑の八つ手の茂り
勢いの過ぎたるせいか
剪定されたるその横に
麗しき桃色の大輪の
黄金の芯の
芍薬ふたつどっしりと
麗しき若葉撓らせ
思う存分開花あり
おばあさんが
既成の規制破りえぬ
へなちょこの詩句案じつつ
着慣れぬに
チュニックなどでふらふらと
コンビニまでを
皐月の盛り
血気盛んの夢の跡
崩れたる屋敷をのぞく
はらわたのごとく溢るる
家具食器
ありすぎるほどの廃屋悲しまる
救いはありて
おのずと生るる生命は
血気盛んのどくだみを
大葉になして敷き詰めて
今しもかかぐ蕾数々
白きその十字の花を
待つ心 明日はも満たさる
うちに無き赤き花ある
ひとの庭
失敬したきも我慢する
静まり返った公園に
ノンくんと遊びたる夏
もうひと月も会えぬ孫
無事で元気であろうはず
花を見て充たされをればいいものを
何故に文字にて再現したがる
写真や絵でもいいものを
まあ許せ
おのれの日常こもごもの
抱く思いを形見とて
遺すつもりまでなくも
こんなことする
それも人なる
猫はさかる
烏は脅したり甘えたり
雀は砂浴び
人は野菜を育てる
こりゃいつまでも
終わらぬ作詩
ゲーテでも読まむ
ならば止まむ