鬼火
アラガイs


その昔、水は鉄を含み、鉄は水の浄化を畏れ池の沼と溜まる
森の樹海より沼を這いい出た
池は湧き水へ灌がれ
道を逸れた一人の女僧が餓鬼を孕む
いつの日か鬼が母となり
母は子を宿しながら性器を喰らい、年老い果てた
池を這う鬼の子は血に飢えていた
水に映る奇体を眺めては怨火に祈祷する日々
松明を掲げた骨の芯は燐と燃え上がり
憎しみの鎧は獣神に身を囲み
鬼子は野地に呪いの火を放つ
ちりちりと赤く燃え襲いかかる火の狐
麓は焼かれ逃げ惑う村人たち
或る者は火にすがり、または邪鬼と化身する
燃え盛る煙りは山を越え、一人の僧侶がやって来た
僧は小高い崖に登ると、薄汚れた衣の前裾を大きく翻し
何やら念仏を唱えながら一気に下方へ小水を撒き散らした
飛び散る飛沫を辺り一面に浴びせかけた
水泡は数珠となり鬼の背に降りかかる
鬼は苦痛に身を捩らせながら池に沈み
やがて無数の鬼面が水に浮かぶ
朝の陽射しを受けた水車が水を弾く
藁葺き屋根に集う鳴き声
村人たちは目覚めると
それから静かに松明の灯も消えた 。










自由詩 鬼火 Copyright アラガイs 2012-05-16 06:45:36
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