pairing
haniwa

その頃僕はまとめて洗濯した一週間分の靴下の仕分け作業中。
全部黒でポイントもない靴下の片割れを洗濯籠の中から見つけるのは至難。
もとからして同じような靴下なのだから、とあきらめる事も出来ず、
他の靴下より少し丈が短い、毛玉がいっぱいついたこの靴下の片割れが
とうとう最後まで見つからない。

2012年12月に世界が滅びると信じていた男は、
方舟の中で途方に暮れていた。
人類の絶望が男の希望になるはずだった。
そこは楽園になるはずだった。
だが世界はこれからも続き、男の絶望も続くのだ。
男は泣いた。いつまでも泣いた。
それを乾かす太陽の光は遮られ、
逃げ水は大洪水に耐える外壁に遮られ、
方舟の中で男は自分の涙に溺れて死んだ。

その頃君はシャレオツな居酒屋で彼の隣に座るチャンスを伺い、
たまたま隣に座ったクラスメイトと景気動向について議論中。
各地で財政破綻が続く中、金の相場は1トロイオンス2000ドルに到達目前。
仲間うちでの君の相場は彼のいなかった一年前と比べて下落基調だが、
それでも十分に君は美しく、入念な化粧とフレグランスで、
ところかまわず愛想を振りまいて、何かを探している。

彼はポケットの中に入っている黒い靴下に気がついて、
この間酔って僕の部屋に泊まったときに適当に履いた靴下の
片割れであることを思い出した。
それからジョッキを飲み干し、君の隣に座り、
そろそろ帰ろうか、と呟いた。
彼は君が新しい下着を今日のために穿いてきたことを唐突に、
はからずも僕の靴下のせいで思い出してしまったのだった、
その頃僕は・・・・・・


自由詩 pairing Copyright haniwa 2012-05-15 23:44:12
notebook Home 戻る