初夏
壮佑

 初夏

少年の頃
お話の木の絵を見た

広葉樹の木陰で
子供達が
眼を輝かせ
耳を傾けている
お婆さんのことば
森や草原を漂い
風に運ばれて
村や町や港や
海や諸国を巡り
世界を織りなす物語
リスに兎に山羊
猫とネズミと子犬
動物達も聞きに来ている
枝先で小鳥が囀り
葉叢の奥には妖精の影
蹄のある足だけ見えるのは
パンフルートを吹く者?

オトギバナシなんかじゃない
大人になってからも
今日みたいな初夏の風が吹いて来たら
耳を澄ませば聞くことができる
樹木の語るお話



 初夏

駅に続く歩道には
ヤマモモの樹が並んでいる
葉陰で誰かの声がしたので
覗いてみても誰もいない
代わりに鈴なりの実を見つけた
表面にぶつぶつがあった

郵便局からの帰り道
ケヤキの下を通り過ぎるとき
笑い声が聴こえて来たから
見上げてみても誰もいない
青空に向かって分かれた太い幹
葉っぱがぎざぎざしていた

ハンバーガー店への道すがら
初夏のイチョウの群葉は
こんなに鮮やかな緑色だったのか
葉っぱの裏から出て来た小人が
みんなでせっせと作業をしている
振り向いたらサッと引っ込んだ

バスターミナルの近くの
クスノキの葉叢が風に揺れている
てっぺんの梢の彼方から現れた
ジェット機雲を眺めていたら
木陰で佇んでいた懐かしい人を
うっかり見逃してしまった






自由詩 初夏 Copyright 壮佑 2012-05-12 21:16:20
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