嵐を呼ぶ女
まーつん

例えば もし
厚く垂れこめた 雲の谷間から
神が手を伸ばして 僕を拾い上げてくれたとしたら

砂埃の舞う 峠道に転がる
何の変哲もない 小石の一つを拾うように

例えば もし
厚く塗りこめられた 壁の向こうから
愛が声を上げて 僕に呼びかけてきてくれたとしたら

冷たい水面みなもを突き抜けて
誰かの手が 冬の川床に横たわる
錆びつきかけた 一振りの短剣ダガーを拾い上げるように

見捨てられた男の背中に 青空が重くのしかかる
雲一つ見当たらないのに 監獄のように息苦しい
だが 不意に響き渡る 一対の足音
気まぐれな運命は にわか雨のように
出会いの恵みを 降り注ぐ

君が そうなのか?
探し続けてきた 答えなのか?

振り向きかけた僕の目に 強い風が覆いかぶさって
視界の中にぼやける 一人の女のシルエット
赤いドレスと 長い黒髪
決然とした足取りで 歩み寄ってくる 君

その瞳の中でせめぎ合うのは
弱者を蔑む冷ややかさと
世界を変えようとする情熱
両者の摩擦の間から
逆巻く風が絶え間なく生み出されて
君の周りに吹き荒れている

僕はそれを 信じがたい思いで見つめている

君はまるで台風の目
怒れる愛の律動
求めているのは 黄金でも崇拝でもない
その 底なしに黒い瞳が探しているのは

全てを照らし 明らかにする光
全ての闇を 吹き払う風

僕は思わず 尻もちをついて
呆けたように 君を見上げた

自分では とても釣り合わないと思いながら


自由詩 嵐を呼ぶ女 Copyright まーつん 2012-05-09 23:35:47
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