A Mad Tea Party
澤あづさ

 黒くなれないクラブの女王の大いなる、ティーパーティの御為に。
 茶葉を求めてジャックらの駆けめぐったオリエントは、いろづいたベルガモットの照りに燻されオール・グレイ、ご存じ? 柑橘の果皮に、光毒、

 ダイヤのジャックが、キーマンを、
「世界の中華の誇りにかけて、アングロサクソンに茶だけは売らん。帰れ阿片やろう」
 追い出されたころスペードのジャックは、セイロンいやスリランカで難渋していた。見よ! かの古きセイロンの英名をば種蒔かれるなり、ウバ茶もはらむ刺激香すがすがしきペパーミントのあおき若芽がイングリッシュミントの辱めに屈するように幾世代、もはや名づけようもない雑種ばかり生い茂って寒々しいプランタープランテーションの根ぶかき連想、
「思い起こせば十九世紀末、あのスコットランド人ジェイムス・テイラーが、」
「わたしたちはイングランドです」
「茶の需要を見出す以前、コーヒーの栽培に目をつけたのもスコットランド系、」
「わたしたちはイングランドです」
「サビ病に斃れたあのコーヒープランテーションの発端は一八四一年、コリン・キャンベルの植民地領事就任であったが、アメリカのスープの缶に乗っ取られて久しいそのキャンベルの名声の愁傷なこと! かの銘酒スプリングバンクの威を借りてすらキャンベルタウンが、オーストラリアのに比べいったいどれほど知名さる、越谷市の姉妹都市なるオーストラリアはキャンベルタウンの、」
「わたしたちはイングランドです」
 そのオーストラリアを失念していた、ハートのジャックはきっとアッサムへ行くべきだった。アッサムでなら辛うじて、言ってもらえたような気がする。きらいじゃないよ、仲よくしよう、アッサムの茶樹はイングランドの大発見だからね…………
「カリーバッシング、」ところが憧れのダージリンを目指すも、カルカッタいやコルカタのあたりで早くも、
「もはや象徴、植民地時代にインドにばかり取り残されたクズ茶のように! さてくだんのクズ茶からインドのチャイの煮られるさまの、まさにカリーのごときこと、あたかもアングロサクソンがベッドで妻に啜らせるアーリーモーニングティーのクズ野菜の、」
「わたしたちはノルマンコンクェストです」

 しまいには日出ずる処まで出張ったが、「まさか、八女の玉露を発酵させるなどとは、」話は終わった。黒くなりたいクラブの女王の、大いなるはずのティーパーティ。
 茶樹を求めてクラブのジャックの駆けめぐったブリテン島は、にわか雨の気まぐれな暗雲に塗られてアーリー・グレイ。この気候で国産茶葉を狙うなら、適地は南のコーンウォールにしかなかった。懇願してクラブのジャックが、
「だってわたしたちはイングランドです」言ったが、「わたしはケルノウです」

 霹靂はやき青天にはためく、
 ウェールズすらえがき忘れて四角く
 三つ葉、
 クラブの女王のユニオン・ジャック、

 ただのトランプでなければこそ。


自由詩 A Mad Tea Party Copyright 澤あづさ 2012-05-08 05:27:34
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