march
しもつき七
おそろしいことの予兆は楽しいマーチでくるはずだから、きっと大
丈夫。ヒーローアニメの最終回で主人公が悪役にやられても、ハッ
ピーエンドはドタキャンにならない。愛すべき味方が空から飛んで
きて、助けてくれるっていう脚本。
私はゆっくり変身を遂げる。怪獣はお茶を啜りながら待ってる。
ハートの形したステッキを振って、だれも守れない日々をやり過ご
し、期末テストが、体育の持久走が、憂鬱な魔法少女です。
だれかのために戦いたい。
あの日。
踊り場で、目撃したのは音楽室の、逆光のピアノに二つの影が、ぎ
こちなく溶けているシーン。光のベールをまとって、私めまいがし
て、階段をくるくる転げおちた。白い上履きを免罪符にした。
ほんとうは破壊、したい。ゴジラになって、生きている戦車になっ
て、あらゆる都市に突如出現したい。テレビのニュースではアナウ
ンサーが現場の状況を伝えていて、きっとみんなチャンネルを替え
る。
救いようのない私がいま対峙している相手は、ほんとうに敵なのか
な。ビームが撃ちみだれる。不可視の光線。バリアーで回避する、
少し傷つく。
次回予告が流れるスピードに追い付けないで転べば、とびちる桃色
の血で、金曜日の放課後。夕焼けやばくて、校舎の影のびて、こわ
れた街の瓦礫の上で、くちずさむ行進曲はやっぱり明るい。
また会おうね未来。うつむいて私は、制服のリボンをほどく。呪文
をとなえる。世界が少し、変わる。誰も知らない場所で。