口笛
メチターチェリ
目が覚めたら夢の中で
バスタブに転がる私は口笛を吹いていた
"史上最大の作戦"だか"コンバット"だか
曲名が思い出せない
膝を抱えて腕についた露をぬぐっている
汗をかいたぶんだけ薄くなった 胸/肩
/指先
いつもどこかを洗いはじめる
背嚢からボディーソープを取りだし隣で
痩身の戦友は故郷の恋人に手紙を書いた
「俺この戦争が終わったら結婚するんだ」
かすれる口笛
トランペットの音が高くなり遠くで爆撃が
鳴った/吊したタオルから雫がポツリ/ポ
ツリと背中に/そして目が覚めるとやっぱ
り夢の中で口笛を吹く私は膝を抱えて曲名
が思い出せない
お湯から突き出した膝小僧が赤い
喉が渇いている
先に行っていてください
言葉は後から追いつくので
そう言って送り出した人ひとりも戻らなかった
私は蛇口をひねって行進を見守りつづける
氷づいたあしおと静けさを帯びている
いつもどおり注意ぶかく洗うんだ歩くんだ
爪先を水弾がかすめて泡が破裂して
空に浮かんだ半月が昼間の蛍光灯に照らされ白く
蒸気のなか目を開けても前が見えない
息があがり
すでに満杯になった浴槽から温もりが次々とあふれ出し
誰もがあふれ冷たくなっても私は吹きつづけた
いまとなっては
私自身を繋ぎとめるつたないメロディライン