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ホテルに四日間泊まり込み、自社の財務のシミュレーションを行った。
財務のシミュレーションとは、複式簿記の作成のことではない。
かつてドイツの文豪ゲーテは複式簿記を、『人間精神の最も立派な発明のひとつ』、そう礼讚した。
ゲーテは、甘い。
愛する女が他の男と結婚することに耐え切れず、自殺しようとしただけのことはある。
自分の感受性だけで、世の中を支配、もしくは理解し切ろうともがいていただけのことはある。
複式簿記で支配、もしくは理解し切れる世界などたかが知れている。
暫定的な利益と、どこから金を調達し、その金が何に姿を変えているのか、それぐらいが関の山だ。
僕たちのいる世界は、そんな単純なところではない。
世界はひとりの感性で、支配、もしくは理解し切れるようところではない。
会社経営にとって切実なのは、資金繰り、つまり運転資金の捻出だ。
財務のシミュレーション、つまり運転資金のシミュレーションを行うと、運転資金が利益から捻出されている訳ではない、このことが見えてくる。
ありとあらゆる事象が、ある一点で、一斉に、結果を出してくるような世界など存在しない。
ありとあらゆる事象が、なにかしらの結果を、様々なタイムラグで出してくる、それが僕たちのいる世界だ。
運転資金の増減は、僕たちのいる世界を象徴している。
財務のシミュレーション、つまり運転資金のシミュレーションを行う。
利益が出たからといって、支払いだけを済ませ回収がまだならば、会社に金は存在しない。
税金にしても、期をまたいで二回に分けて支払う。
減価償却費にしても同じようなことが言える。
在庫、当座預金や普通預金、短期借入や長期借入が適正であるのかどうか。
あらゆる事象の結果そのひとつひとつをグルグルと繋ぎ合わせてゆく。
それをつぎの期、そのまたつぎの期、そのまたつぎの期と繰り返してゆく。
それによって運転資金の増減を確認してゆく。
そして未来の運転資金を捻出する手立てを打ってゆく。
あえてゲーテの言葉を借りるとするならば、財務のシミュレーション、つまり運転資金のシミュレーションこそ、『人間精神の最も立派な発明のひとつ』と言えるのではないだろうか。
僕たちのいる世界は、いま僕たちによってシミュレーションされているのだろうか。
僕たちはゲーテみたいなことになっては、いないだろうか。