4月29日
エスカルラータ




雨を洗う
プラチナの雨
光漬けになってゆくスリジエ
小さく開いた
指を結んで


単純な日々の曲線を
なぞった軌跡
映し出される度に
周りをやわらかくする


ロールケーキに入刀、なんて
聞いたことないよ
そうだね
あのふたりらしいね
そうだね


ああ
あちらのお母さん
立っちゃったよ
新郎新婦ご両人って
言ったのにね
目つむってるぜ
本当だ
緊張してるんだね
そうだね


夜勤だから、と
料理名を書いたブラックボード
イラスト付き

すれ違いだったから
冷蔵庫に手紙を添えたバースデー

すれ違いだったから
手紙を添えて返ってきたクリスマス


運ばれてくる
特別あつらえの料理は
そういう事があったなんて知らない
でも
その一口ひとくちが
祝い方をよおく知っている味で
ドアが開くたび
つい厨房のほうを見てしまう



「噛んだら笑ってくださいね」

妹とは10年来の仲である
親友の手紙
笑うわけないじゃんか
なあ
技巧とかメタファーとか
そんなの必要ないじゃん
だってこんなに伝わるんだもの
ムービーが
電池切れでよかった
この手ぶれは補正できそうにない



誰よりも早く起きて
朝飯を作って
仕事して
いつも日付が変わってから眠って
喧嘩もして
途中から女手一つになってしまって
でも危ないからって
妹の送り迎えは欠かさなかった

父が亡くなっても
一人で二人分なんだと言って
気丈に振る舞い続けた

そんな母が

お色直しの扉へ
手を引く相手として

「お母さん」と呼ばれた時

静寂が発火した。あの響きを
生涯忘れる事はないだろう




雨を洗う
プラチナの雨
光漬けになってゆくスリジエ
小さく伸ばした
その手をとって


人に永遠は無いとしても
永遠を持つ人には
なれるかもしれない
家族
見えなくなってもそれは
きっとずっと続いていく


ほとばしる絆が生んだ熱のかけらに
少しだけわがままな願いを乗せた
どうかこの日の主役が
あくる日も
また来る年も
試される渦のその先でも
その言葉の響きが持つ力を
受け継いでゆけますように、と



 


自由詩 4月29日 Copyright エスカルラータ 2012-05-04 19:24:21
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