signifiant
紅月
それから、
と いつも
はじまりは
それから、
おだやかに
火葬された赤子の
骨は小指の
爪ほど小さな
鈍い星の
欠片みたいだった
みたいだった
という
あえかなる比喩が
途絶えたはずの
シナプスの
零落のひとつひとつをなぞるように
曖昧な
詩情で埋めて
不明は、やさしい
どこまでも、やさしい
と
反芻するうち
叩きつけられた、
硬いアスファルトのうえに
酩酊する
音叉
風がなびいている
青い
地雷原の静けさと
そこに立つ素足を
すずしい水が抜ける
油絵のように
浮きあがる緑と
禿げた皮膚のように
散点する土色、
空を見あげれば
そこにある海は
とても不気味だったことを
おぼえている
溢れてくる指、
は なぜ
これほどまでに
傾いているのか
その傾斜を
熟れた赤林檎が
転がってゆく
鼻腔を突く
甘さ
「顔をしかめて。
なぜ
「比喩を置いてきた。
なにも追ってはこない
ゆうれい、
あなたもゆうれい?
、あなたも?
風になびいている
白煙、
焚き火のなかへ
古書が投げこまれては
にがい音で爆ぜ
溶けてゆく
(あらゆる比喩は
赤子なんだよ)
と
耳元で声がして
千切れたはずの
シナプスの
ひとつひとつが点されてゆく
(なにと
刺し違えればよいのか)
このひろく
青と緑と肌色が
まだらとなった
地雷原の果てのほうに
ふらふらと立つ
白いゆうれいたちの影が
どこまでもながく
風になびいている