中世ペストの流行によって
この街の人口の1/3から半分が亡くなったのだそうだ
日差しに照らされていると疲れてくる
だから建物の影をさがして散策する
さすがビールの国だ
通りすぎる女の子たちがアイスクリームを持つように
金色の入ったプラスチックカップを片手に歩いている
市庁舎のまえで地図を広げる
+印がたくさん目についたから教会をまわってみようと思う
ひとつ目にはいる
固くて重い扉をひっぱるように開ける
ふたつ目にはいる
石埃の香りがひんやりと包んでくる
みっつ目にはいる
どの長椅子に座ろうかなって歩を進める
よっつ目にはいる
きらびやかな装飾が歳月に汚れている
いつつ目にはいる
静かな湿り気のなかで遠くを祈る
むっつ目にはいる
人生は曇りや雨のときにばかり祈るのではない
ななつ目にはいる
まだなにもない場所にむかって祈る
気づいてはいたのだが
よっつ目くらいからひとに付けられていた
夢から醒めたようになってななつ目を出たとき
背の高い男の人に話しかけられた
私はロシア人だ、この教会には毎日来てるんだ、一緒に食事でもどうだ、
優しい気持ちになっていた
哀しい気持ちになっていた
わたしは日本人だ、わたしは仏教徒なんだ、
日差しがふたりを照らしていた