8時をまわっても夜が明るかった。
昼、ザワークラウトとソーセージをたらふく腹に入れていたので、夕食は違うものにした。
旬のホワイトアスパラの料理を食べ、オレンジ色に濁ったビールを何杯か飲み店を出ると、9時を過ぎた空が青に汚れていた。
軍用機のエンジン工場だったこの街は、大戦で焼け野原になってしまったのだという。
だから道路が広いのだそうだ。
建物はあえて昔を復元するように建てられている。
立ち寄ったバーは満員で、地元のおじさんたちに相席をお願いした。
この国のひとたちは皆一様に親切だ。
どこから来たのか、目的はなんなのか、そんな会話はお互いの職業の話になっていったが、英語力のなさで細かいところまでは分からなかったし伝えられなかった。
大きな話ならと思いドイツの産業についての質問をしてみた。
分かりやすい明確な答えが返ってきた。
それはやがて彼らの歴史の話になった。
彼らは自国の歴史に自信と誇りを持っていた。
未来に、揺るぎのない強い楽観を持っていた。
話を聞いているとそれがとてもよく分かった。
彼らの暮らし、働きぶりや愛、得意や蹉跌をイメージしながら、ひたすらこのドイツ人たちの話を聞いていた。
邪魔をしてすまなかったな、そんな感じで彼らが席を立った。
再会を約束して彼らを見送る。
遠ざかる彼らの後ろ姿を見つめる。
すっかり群青いろに汚れた空の下、そこを彼らが連れ立って歩いていた。
民族のDNAをくらげのように浮かべて、人間という袋に入って歩いていた。