五月、北の国の少女は
橘あまね
北の国で少女は
歌を集めて翼を織った
旅してゆきたかった
生ぬるいかげろうの季節に
歌はそこら一面で摘まれ
籠のなかでちいさく鳴いた
迷子になったひよこたち
草原を季節風が凪いで
少女の髪はくろく揺れた
しろく
はにかみがこぼれた
つよく土を蹴って
運ばれていく
陽射しをかきあげて
にぎわう季節の方へ
かさねた色を
一枚ずつ脱ぎ捨てて
あかむらさきの
ゆらめきは内と外の
どちらから来るかしら
淡いリネンに隔てられて
育まれる甘み
持て余しの熱をあおって
覆われていく
海を渡る声に呼ばれて
振り返るとき
予兆は孕まれて
ひそやかに ひそやかに
はがれ落ちるちいさな痛みたち
草原をつつむ湿度に
溶け出していく
夢をみていた