港町から愛を込めて
TAT
























日本海の港町に


住み始めて半年をやや越えた











『明日はルックJTBの食べ放題が五台くるから…』と岸さんが言った








英訳すると紅のズワイのカニ足を本社の冷凍庫から出庫するから












お前フォークで取りに行って来いよ?





という意味で















勿論無免のフォークで只取りに行くだけじゃあない










そこにはカニ足を溶かす作業
つまり
ガチガチのロシア産の冷凍をプラスチックの桶に山盛り突っ込みホースの水で溶かして回る


そういう作業も当然付いてくる



早く帰りたい時にはゴム長で踏みながら水をかける










一人四百グラム食う換算で













ワンバス四十人と考えて















まぁ八十キロってとこか





















五キロ箱が



十六か

























まぁ



しれてんな…



























『はい!』と
笑顔で返した




















そういう暗算が出来ない人は















寡黙で静かな日本海の漁師町とかには









勤めない方が良い












































五時過ぎ頃に岸さんは音もなく近付いて来て





上機嫌で













そりゃあ上機嫌だろうよ
てめぇが本来やるべき仕事を


八割五分まで俺が片してやったんだから

























カニカニってみんな適当に言いやがる












カニは高価な食べ物だと


高級な冬の食材だと





カニと名が付けば全て良い品だと



みんな思ってるらしいが正気かよ


阿呆か





















牛肉でも神戸牛の霜降りとオーストラリア産のグラム五十円じゃ









意味が全然違うだろ













同じ事だよベニズワイガニなんて食えたもんじゃない










普通は加工食品としてしか世の中に流通しない






















下の下のカニさ







地物の松葉蟹と一緒にすんな














それでもカニはカニだから















食べ放題なら申し込めばいいんじゃないの?























御堂筋沿いのカウンターで申込書に住所とか連絡先とか書いてさ
















一足早い母の日に安い日帰りツアーをプレゼントして


















脚が最近悪いオカンに一万円未満の孝行をする
酔えば良い誰にも神様にも



それを咎める道理は無いさ















ジャブジャブがちがちゴム長でカニを踏みながら溶かしつつ











タバコを二本もジュッ!と棄てた頃















岸さんが今更近付いて来て
















世間話のていで















俺に踏み入ろうとした




























































年末にザ・モッズについて短時間雑談した

















その事を実はじっくり反芻してたんだろうな













岸さんは











































めんたいロックについて持ちかけて来たので



























するりといなして帰ったよ











































お前が『TWO PANKS』の何を語れるんだふざけるなと















腹で思いながら

































帰りました






















サンマートの半額タイムがじきに始まるから
























お先です


















この町で暮らして数ヶ月になる




































A型ですと答えると

皆ウソだろ?と言うが























実際ガチでAだ

































































































































自由詩 港町から愛を込めて Copyright TAT 2012-04-28 21:11:50
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