影の街
佐藤伊織
どこかに希望というものがあるなら
どうか、それを書いて見せてください
答案用紙に書きかけて消した
ヨシオはいつものように難しい顔をして
悩むフリをする
解答することはいつも簡単だけど
何か重要なことを忘れてしまう気がして
ヨシオの心は不安に駆られる
学校で教わることを一つ覚えるごとに
その不安は次第に強くなる
ヨシオの机の中には教科書と
その教科に対応したノートが入っている
そしてもう一つどの教科にも対応していないノートがある
そのノートは中学生に入った頃から使い始めた。
夏
ゼミに出席する人もまばらだった
共形場の計算にすでにノートの半分は使ってしまった
昨夜は面倒な演算子展開の計算を
数時間にわたってやっていたのだった
「」
「ヨシオはどの教科にも対応していない」
隙間から吹く風に誘われるようにヨシオは歩いていた
解答用紙の上は真っ白い草原だった
「」
識別する
隙間を作り
そこに入っていく
眠りを催す猫の吐息
あれはボクのイエが反射されて光っているのだ。
先生
入ってもよろしいでしょうか。「どうぞ
「粉々に割れた硝子窓を見て
」綺麗な空にひびがはいっていくような感じだった。
そこから真っ青な光が差してくる
照らし出された教室の中に何人かの少年達が浮かびあがる
「きっとこれがその世界なんだって、そう思ったんだ」
シゲルが笑っている7階の非常階段
風の揺れる音の中で
ヨシオにはそれがどうにも納得できない
「でもボクは知ってる」
「何を?」
「影の街について。」
「先生は?」
「答えてくれなかった。」