影の街
佐藤伊織


どこかに希望というものがあるなら
どうか、それを書いて見せてください

答案用紙に書きかけて消した
ヨシオはいつものように難しい顔をして
悩むフリをする

解答することはいつも簡単だけど
何か重要なことを忘れてしまう気がして
ヨシオの心は不安に駆られる
学校で教わることを一つ覚えるごとに
その不安は次第に強くなる


ヨシオの机の中には教科書と
その教科に対応したノートが入っている

そしてもう一つどの教科にも対応していないノートがある





そのノートは中学生に入った頃から使い始めた。








ゼミに出席する人もまばらだった
共形場の計算にすでにノートの半分は使ってしまった
昨夜は面倒な演算子展開の計算を
数時間にわたってやっていたのだった




「」




「ヨシオはどの教科にも対応していない」






隙間から吹く風に誘われるようにヨシオは歩いていた
解答用紙の上は真っ白い草原だった



「」



識別する
隙間を作り
そこに入っていく

眠りを催す猫の吐息
あれはボクのイエが反射されて光っているのだ。





先生

入ってもよろしいでしょうか。「どうぞ

「粉々に割れた硝子窓を見て

」綺麗な空にひびがはいっていくような感じだった。






そこから真っ青な光が差してくる
照らし出された教室の中に何人かの少年達が浮かびあがる




「きっとこれがその世界なんだって、そう思ったんだ」

シゲルが笑っている7階の非常階段
風の揺れる音の中で
ヨシオにはそれがどうにも納得できない



「でもボクは知ってる」


「何を?」


「影の街について。」




「先生は?」


「答えてくれなかった。」















































自由詩 影の街 Copyright 佐藤伊織 2012-04-28 12:12:49
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