るるりら

【命の島】

瀬戸内の生温かい風の中
虫篭を編む 
白いビニール製のストローを器用に組み立てて
円錐状の虫篭を編む
昔は 葦だので編んだらしい
ストローの語源は ワラだと言うけれど
ここの人は茎の穴に茎を挟み込んで つみあげて 虫篭を編む
虫とり籠に
底は無い

ロート状の虫篭を そっと蛍に被せて
しばらくの間だけ 
蛍の光にそこに いてもらう

瀬戸内海の島々のほとんどの島や本土では 源氏ボタルが優勢だ
けれど なぜだか 富士山に似ているという この似島だけでは
平家ボタルが しずかに 命を紡いでいる

またたく  その光に 
暗がりが寄り添う



【虫の息の島】

端麗に折りたたまれた 虫取り籠が
風に耐えている
波が くりかえしくりかえし島を洗う
水平線の果ての稜線のことを 島という
かぎりなく稜線が 水平線になろうとしている
ここはホボロ島

小山のようなこの島の てっぺんは 以前は22メートルもあった
今じゃあ 潮がひけたとき 6mほどしか 海から顔を出せない 
人々はこの島を ホボロ島と呼ぶ
この土地の虫取り籠に この島は似ていて
虫取り籠のことを ここいらでは ホボロと呼ぶからだ

最近になって 学者が この島が消滅しようとしている理由を
つきとめた。ちいさな虫が この島を
食べ続けている
島は 虫に食べられて消滅しようとしている

ほろぼろと ホボロ島は 
今日も食べられ続けながら
こころおきなく波と遊ぶ

島に 
生き物の声がする  
島でなくなっても
生き物の声がする 


自由詩Copyright るるりら 2012-04-28 11:15:48
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