契約
藪木二郎

 確かにあのニオイのもとになってる
 様々なガスはエネルギーだし
 そもそも
 あのニオイを生み出してる細菌達にとっては
 あれ自体が物凄い
 エネルギーの塊りだとも言えるね
 でも
 そういったあれのエネルギーだけでは
 あれを産み落とした元の有機体を
 再構成することはできない

 結局あれは
 あれを産み落とした元の有機体に較べ
 常に高エントロピー状態っ
 てことさ

 つまりあれには
 顔がない

 誰が産み落としたあれなのか
 なんてことは
 あれのほうから逆に
 たどることはできない
 まあ少なくとも
 人間の
 通常の感覚器官ではね

 ところが君達変態には
 なぜかそれが
 できてしまうんだ

 たとえば君達に
 あれのブラインド・テイスティングを
 させたとするよ
 まあ
 元の有機体の個体名を隠し
 あれそのものだけを
 提示するとか

 すると君達はなぜか
 元の有機体の個体名を
 言い当ててしまうんだ

 ムフッ
 真希ちゃんの匂いだ

 とか

 オオッ
 寛子女王様の
 芳香
 輝き
 そしてこの奥深い苦みっ

 とかね

 つまり君達は
 エントロピーを超えるんだよっ

 これは凄いことだ
 本当に凄いことなんだよっ
 みちおっ

 そして僕達サッキュベーターは
 そんな君達の変態パワーから
 無限エネルギーを回収する方法を
 見つけたんだ

 だから

 ねえみちおっ

 僕と契約して
 魔道戦士になっておくれよっ


自由詩 契約 Copyright 藪木二郎 2012-04-28 00:12:31
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