バキュームフェラ祭り
いとう



看板の文句に惹かれて暗い地下へ降りると、天上の蒸し暑さを忘れるほど冷えた待合室に通され顔写真とプロフィールのリストを渡される。幾人かの男たちがあたりまえのようにノンアルコールを飲みながら彼女たちの時間を拘束するのを待っている。その目には共犯の意識すら見えず、その目には期待すら写らず、マリア。君はこんな地の底で僕に選ばれる。

似つかわしくない名前
似つかわしくない容姿
似つかわしくない笑顔。
申し訳程度の着衣にクルスのペンダント、「マリアです」と握手を求められ、応えるとそのまま寄り添って「脱がせて」と溜息をつく。首筋に一瞬クルスが触れその部分だけ、さらに、冷える、マリア。
僕は君のことをマリアという名前でしか知らない
マリア
それは赦されることなのだろうか
マリア
これは赦されていることなのだろうか
マリア
祭りには、儀式が必要で、その儀式に殉じるまるで、生贄のように。

技術、はフォーマット化されマニュアル化され伝播する。この薄ら寒い、けれど湯気で君の輪郭が見えない部屋もフォーマット化されマニュアル化され伝播し、部屋の数ほどの生贄が捧げられる中、マリア、君はマリアとして君であり、それ以外の何者でもないマリア。
それは尊いことなのだろうか
マリア
咥えたままの君に答える術はなく
クルスが僕の腹をなぞり、時が過ぎ、マリア、君はまた別の男に拘束される。

「どこで教えてもらったの」と訊くと
「マグダラで」と
君は笑って答えるのだろう





未詩・独白 バキュームフェラ祭り Copyright いとう 2003-06-19 16:37:08
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