三月の街のためのオード
佐々木青

強くゆきすぎるものがある
  揺れる信号機
 交差点を走るのは
   車ばかりじゃなく
あまりの
 (不可視の)
 存在感に
  帽子をおさえる
    目をつむる
   スカートをぎゅっと
         つかんで
      小さな子どもを抱きしめる
  老紳士がそっとささやく
   「春がちかづいているんだよ」
   横断歩道に
   「ここはどこのほそみちじゃ」
     語りかける
        おばあさん
  人々はその白と黒を
       たよりにして
     街を
      ゆきすぎる
         どこまでも
            ゆきすぎる
  飛んできた帽子を
      あわてて拾う
   走ってきたおねえさんの
  なびく黒い髪
 また
   流れていく
     ほほえみ
   さよなら
  さよなら
    さよなら
 別れていくセーラー服
    「春がちかづいてきたんだね」
      ブティックのまえでお母さん
   黄色い花柄のワンピースを着た
    マネキンを少女は指さして
   「あー ママだー」
       三月の街
       石畳の商店街に
       強くゆきすぎるものがある
   「ありがとね」


自由詩 三月の街のためのオード Copyright 佐々木青 2012-04-27 02:03:53
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