目覚まし時計は、まだ鳴らない。
ズー



きみのオデコはとがっている、おやすみと言うたびに、やだやだされて、それはちょうど夏の虫だったから、掛け違えたボタンが蝉のように、ポックリ病だ、ぼくはきみを目覚まし時計と間違えていた。
縞模様のパジャマだった、水墨画のようにきみをおもい描けば、薄くひかれた瞼が、ヒダリ耳までのび、そのまま赤道と交差して、光を帯びた、旅客機のかたちで、光のさきに、旅仕度はいらないけど、先ずは皺くちゃになった星空に手を伸ばす。きみの足をポークビッツだとばかりおもっていた、ぼくはかに座です。


海岸堤防の階段‐蹴込みの両隅は黒ずみ‐時々白く濁る‐ぐんぐん駆け登ると‐まだ誰も走ったことのない‐空まで続く巨大なハイウェイが現れる‐振り返ると‐せり上がった家並みに浮かぶ‐エンジンの搭載されていない‐六畳一間の小船の船底で‐大波に遭難したきみは眠っている‐今夜も夜通し救難信号を送っていた‐ぼくはひるがえり‐波打際まで一気に降りる‐砂のひとつも色を帯びずに‐でも、今はハイウェイを横切る玩具の漁船が‐どこかの釣り人に釣り上げられ‐岬の手前からふいっときえた‐しらみはじめた空で解体された‐星座群がその後を追う‐夜が溶け、墨汁のような海原に‐ぼくは飛び込んだ。


ずぶ濡れで帰る、未亡人の大家さんに見つかる、ぼくはブリーフ一枚、指先にひっかけたハイカットから点々と海岸まで続く海のにおい、きみのポークビッツをかじるイメージで、大家さん、おはよう、歯ざわりのよさに、振り返っていた、きみのオデコと息き絶えたボタンに触れる、EDWINと砂のついたTシャツを流し台にほうり込んだ、どこにも飛び立たない旅客機は疲れきっている、小船に溢れた七月に、息もできないかにが泡をふいて、船底をうろついていた。


自由詩 目覚まし時計は、まだ鳴らない。 Copyright ズー 2012-04-26 11:11:30
notebook Home 戻る