ノート(水地)
木立 悟
死んでしまった
気づくと
生きていた
今あるからだの半分は
どちらでもないものだった
雁と鴨が飛び立った
海は水紋と
穴に分かれた
曇の音が
止むことはなかった
網を溶かす陽
音は何処にいる
音は常にいる
降るかけら降るかけら
ひとつとして逃がさずに
油と水と筆と紙
物と物と物を燃やして
絵を描くものは描きつづけている
汽笛と瓦礫を浴びながら
あなたはあなたの午後と真昼を
あなたの夜に裁くなかれ
たれ流される日誌と自史を
けして詩だと思うなかれ
穴があり虹があり
高いところへ吹いてゆく
己を持たぬものを染め
神を畏れぬものを染め
いま駆け昇る雨 千兆の蒼
器を器にふりほどき
近づくものさえ拒みながら
鉛の水車を空へ向ける
とどけ とどけ
とどくことはないと知りながら
欠けたものを補わぬまま
ただひとりのためのひとりとなり
あなたへあなたへあなたへうたう
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